「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」のおすすめ度
おすすめ度 | ★★ |
おすすめ読者層 | 経営者 日本の歴史史実を知りたい |
あらすじと感想
会津藩は明治維新により逆賊扱いされ、藩士たちは流罪となり辺境の地に移封され、寒さと飢えによる悲劇的な生活を強いられました。
そうした悲惨な苦難の中で薩長への憎しみを抱きながら生き延びた人物が、会津藩武士の生まれだった柴五郎です。本書は柴五郎の生涯を記録した話となっています。
明治維新で薩摩藩や長州藩が脚光を浴びる一方で、歴史の裏側では、会津藩のように悲劇や屈辱に見舞われた陰の部分も存在します。
勝てば官軍ということで、歴史は概して勝者が描き上げ、私たちも歴史事実も表面しか知りえないことが多くあると思います。本書は歴史の裏側である会津藩の視点から見た歴史を知ることができ、色々な発見があり学ぶことも多くあります。
本書の唯一残念な点は、昔の旧字体や文体で書かれているため読みにくいです。
読みやすさという点でおすすめ度が低くなりましたが、本書の内容自体は素晴らしいので速読ではなく時間をかけて本を読む人なら問題無いでしょう。
「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」より引用
わが家は先年の冬と同じく満足なる戸障子なく、蓆さげたる乞食小屋なり。陸奥湾より吹きつくる寒風、容赦なく小屋を吹き抜け、凍れる月の光さしこみ、あるときはサラサラと音たてて霙(みぞれ)舞いこみて、寒気肌をさし、夜を徹して狐の遠吠えを聞く。
終日いろりに火を絶やすことなきも、小屋を暖むること能わず、背を暖むれば腹冷えて痛み、腹暖むれば背凍りつくがごとし。
掌こごえて感覚を失うこと常なれば、時折火にかざして摩擦す、栄養悪きうえ終日寒風に吹かれて縄ないてあれば、皮膚荒れて蓆を被りて、みの虫のごとく、いろりの周囲をかこみて寝るほかなし。
祖母、母、姉妹が自刃した後、餓死寸前の悲惨な生活を耐えて生き延びてきた柴五郎。本書を読み進めるだけで、その光景が頭に浮かび読むことさえ辛くなり胸に込み上げてくるものがあります。本書は、知っておくべき歴史の裏側を教えてくれます。
本書のポイント
①明治維新により会津藩は朝敵の汚名を着せられ、下北半島の火山灰地に移封された非情な歴史
②家族の自刃や極貧生活の悲惨な境遇と、その中でも武士精神を失わない精神力と薩長への敵意
③会津藩の立場から見た明治維新の評価とは